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大胸筋に最も効果的なトレーニングは?【ベンチ角度編】

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前回の記事から少し空いてしまいました。

前回の記事は厚い胸板を作るための大胸筋のトレーニングで最も効率の良いものは何かについてお話ししてきました。

 

 

rehaphysical.hatenablog.com

 

の中で最も効率良く大胸筋を鍛えるには予想通りベンチプレスが一番という結論に至りました。

 

しかし、「単に大胸筋と言ってもその中の部位・繊維の鍛え分けが必要」「ベンチは角度によって効果が変わる」とトレーニングに慣れてきた方は思うかも知れません。

 

今回はそんなベンチプレスの角度によって大胸筋の中の部位・繊維がどう鍛えられるのかを紹介してきます。

 

◆大胸筋の解剖学

 

ンチプレスによって大胸筋の鍛えられる部位の違いを知るにはまず、大胸筋の解剖学を理解する必要があります。

 

一般の方なら「解剖学?」となるでしょう。

 

少し余談になりますが、解剖学とはトレーナーなどが骨がどう配列しており、どこからどこまで筋肉がついているかなどを学ぶものです。

私の様な医療系であればそこに加え、神経や内臓、脳などの解剖についても勉強する必要があります。

 

ただ解剖学は奥が深くトレーナーを目指す学生さんは「解剖学か...」と苦手意識がある方が多いでしょう。

 

しかし、解剖学はトレーニングするにあたり必ず理解する必要があります。

 

話を戻しますが大胸筋はこの様に身体に付着しています。

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ざっくり説明すると鎖骨や胸の骨(胸骨)から腕の付け根についています。

 

それを部位に分けると大胸筋上部繊維、中部繊維、下部繊維となりこんな感じになります。

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一口に大胸筋と言っても、3つの部位に分けることができます。

 

 

ちなみにこれを身体の表層から見ると上部、中部、下部でそれぞれこのあたりになります。

 

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レーニング中級者〜上級者はこれらの部位ごとに鍛える方が多いです。

 

そして、これらの部位を鍛える際にベンチプレスの角度が重要になってくるのです。

 

前置きが長くなりましたが、ベンチプレスの角度によってそれぞれの部位のどこが一番鍛えられるのかを調べていきましょう。

 

◆大胸筋上部繊維

 

ずは大胸筋上部繊維です。

大胸筋の上部繊維は鎖骨の内側1/2から上腕骨の大結節稜に付いており、肩関節の水平屈曲、屈曲、内転、内旋を行います。

この大胸筋上部繊維はボリュームのある胸板を作るのに欠かせません。

 

特にボディビルダーやフィジークの選手はこの大胸筋上部繊維を鍛えることが一つの課題と言えます。

 

そこで議論されるのが、インクラインベンチプレスです。

 

このインクラインはよく「大胸筋上部にはインクラインだ!」という方と「いや、インクラインは実は三角筋に刺激が強くディクラインベンチの方が効果的だ!」という方に分かれます。

 

その際に引き合いに出されるのがこの「筋力トレーニングのベンチプレス系3種目における大胸筋、前鋸筋及び三角筋の筋電図学的研究」です。

 

この研究では、インクラインベンチプレスは大胸筋上部繊維に効果的だと言われているが、実際には三角筋に刺激が入り大胸筋には刺激が少なかった。むしろフラットのベンチプレスや大胸筋下部繊維に効果的だと言われているディクラインベンチの方が大胸筋上部の筋電図は大きかった」とされています。

 

この研究から「インクラインは実は大胸筋上部には効かないんだ」と思っている方が一定数います。

 

しかし、実際はそうでしょうか?

この研究をよくみてみると気になる点が2つあります。

それが「ベンチプレスは全てスミスマシンであること」「インクラインの角度が60度と急であること」です。

 

まずスミスマシンについてですが、ベンチプレスの特徴は肩・肘の角度、バーベルの降ろす位置の自由度が高いことです。

 

それによって筋の伸張感をコントロールしたり、効かせる場所を変えたりすることが可能です。

しかし、スミスマシンでそれらを固定してしまうと思った場所に効かせにくくなります。

 

 

更にベンチの角度が60度と急であるため、どうしても肩関節の屈曲や水平屈曲よりも三角筋の主な働きである外転運動に近くなってしまいます。

 

三角筋の働きやすい運動方向になり、動く方向やバーベルを降ろす場所も固定されてしまってはどうしても大胸筋には刺激が入りにくいです。

 

逆言えばこの研究のインクライン(60度のスミスマシン)は大胸筋上部ではなく、三角筋の働きが大きかったという結論は正しいことであり、研究自体は正確だったのかなと考えます。

 

 

この研究を踏まえて「スミスマシンではなくフリーウエイト」「ベンチの角度を変化させた」研究はないかと調べてみました。

 

すると2020年に「Effect of Five Bench Inclinations on the Electromyographic Activity of the Pectoralis Major, Anterior Deltoid, and Triceps Brachii during the Bench Press Exercise」という研究が出されていました。

 

この研究ではベンチプレスの角度を0°,15°,30°,45°,60°と15°刻みで変化させ、大胸筋の筋電図を調べました。

 

すると「大胸筋の上部繊維はベンチ角度30°で最も筋電図が大きくなった」という結果になりました。

 

またこの研究では30°の角度が最も大胸筋上部が働いたが、15°でも上部繊維の働きは大きくなったとされています。

 

そして60°ではやはり三角筋の働きが大きくなったとされていることから、ベンチプレスの角度が大きくなりすぎると三角筋のトレーニングになる様です。

 

2010年に出されたその他の研究でも44°,56°のベンチ角度と比べると0°で上部繊維が働き、更に0°よりも28°で最も大きく収縮が見られたとされています。

 

これらの研究から大胸筋上部繊維を鍛えるにはベンチプレス15°〜30°のインクラインベンチが有効、特に30°で有効な確率が高いと考えられます。

 

◆大胸筋中部繊維

 

胸筋中部繊維はトレーニング初心者が最も肥大しやすく

「自分の身体が変わってきている」と実感できる場所でもあり、最も鍛えやすい場所になります。

 

大胸筋中部繊維は胸骨及び第2〜7肋軟骨の前面から上腕骨の大結節稜に付いており、作用は肩関節の水平内転と内旋になります。

 

 

大胸筋中部繊維が最も効率良く働くベンチプレスの作用はもちろん0°のフラットベンチです。

 

Effect of Five Bench Inclinations on the Electromyographic Activity of the Pectoralis Major, Anterior Deltoid, and Triceps Brachii during the Bench Press Exercise」や「An electromyography analysis of 3 muscles surrounding the shoulder joint during the performance of a chest press exercise at several angles」などの研究でも0°のベンチプレスがより高いパフォーマンスを示しました。

 

 

これらの研究により大胸筋中部繊維は0°のベンチプレスで最も鍛えられることはわかりましたが、0°のベンチプレスはその他にも大きな効果をもたらします。

 

 

こちらの筋電図のグラフを見ていただければ分かる通り

0°のベンチプレスで大胸筋の上部(PMUP)、中部(PMMP)、下部(PMLP)が全体的に働いています。

 

 

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※Effect of Five Bench Inclinations on the Electromyographic Activity of the Pectoralis Major, Anterior Deltoid, and Triceps Brachii during the Bench Press Exerciseから抜粋

 

 

まり中部繊維だけでなく0°のベンチプレスは上部や下部にも刺激が与えられるため、最も効率良く大胸筋を鍛えることができるのです。

 

また単純以下の研究を見ても分かるとおり、他の種目よりもベンチプレスが効率的に大胸筋に刺激が入るためトレーニング初心者はベンチプレスだけでも十分筋肥大を目指すことができます。

 

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 レジスタンストレーニングを受けた男性におけるバーベルベンチプレスとダンベルフライの筋肉活性化の比較

 

◆大胸筋下部繊維

 

後は大胸筋の下部繊維です。

大胸筋の下部繊維はフィジークの選手などが大胸筋のカットを綺麗に見れるために鍛えることが多いです。

 

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胸筋下部繊維が発達していないと胸板が厚いはずなのに

「なんだか大きく見えないな」と感じてしまうこともあります。

 

 

そんな大胸筋下部は腹直筋鞘前葉から上腕骨の大結節稜についています。

作用は肩関節の内転、内旋です。

 

大胸筋下部繊維は上記の通り、胸の下の部分から腕の付け根辺りに付着しているため

腕を下に押し込む様な運動で鍛えることが出来ます。

 

 

大胸筋下部繊維に最も有効なのはどのベンチの角度でしょうか?

まず先ほどの「Effect of Five Bench Inclinations on the Electromyographic Activity of the Pectoralis Major, Anterior Deltoid, and Triceps Brachii during the Bench Press Exercise」では、0°で最も下部繊維が刺激され、徐々に角度が上がっていくにつれて刺激が弱くなっていきました。

 

またInfluence of bench angle on upper extremity muscular activation during bench press exerciseという論文では「ベンチの角度が-15°だった時に大胸筋下部繊維が最も効果的に働いた」とされています。

 

 

大胸筋下部繊維を鍛えるにはディクラインベンチプレスがいいと一般的には考えられていますが、これらの研究をみる限り間違っていない様です。

 

またベンチプレスではないですが、大胸筋下部を鍛えるにはディップスも効果的です。

 

ただディップスを行う際は体を垂直にしてしまうと上腕三頭筋の収縮が強くなるため、筋肉の走行を考慮して、身体を垂直にして行うよりもやや体幹を前傾させて肩関節を伸展位から屈曲位に持っていく様に行う事でより効果的に大胸筋下部繊維が鍛えられます。

 

 

◆まとめ

 

回はベンチプレスの繊維とそれぞれの繊維が鍛えられるベンチプレスの角度を様々な研究から見ていきました。

 

簡単にまとめると

上部繊維:15°~30°のインクラインベンチプレス 

中部繊維:0°のフラットベンチプレス

下部繊維:マイナス角度(今回の研究では-15°)のディクラインベンチプレス

が最も効果的に鍛えられるとなりました。

 

ただトレーニング初心者は最初からこの様な部位分けをする必要がないため、どの繊維もバランスよく鍛えられる0°のフラットベンチプレスのみでも十分大胸筋は鍛えることができます。

 

 

大胸筋は男性であれば大きくしたいと思うものですし、ベンチプレスはどのジムでも人気のトレーニング種目です。

 

レーニング初心者から中級者に変わっていく段階で大胸筋を部位ごとに鍛えていきたいなと思ってきたときは今回の記事を参考にしていただければいいなと思います。

 

今回も記事を読んでいただきありがとうございます。

また次回お会いしましょう。