睡眠不足だと筋肉は付かない?筋トレの効率を良くするためには
トレーニングを始めるときにジムに行ってから「よし、今日も頑張るぞ!」と気持ちを高めてトレーニングを行う人は多いと思います。
ジムに来たらテンションが上がり、頑張るぞという気持ちになるのはとても良い事です。
しかし、実はトレーニングはジムに行ってから始まるものではないのです。
トレーニングはジムに行く前、もっと言うと前日の睡眠からすでに勝負は始まっています。
◆寝不足なだけでトレーニング効果は減少する!?
2012年にイギリスに行われた研究では、被験者を2つのグループに分けてこんな実験をしました。
グループAは8時間以上の睡眠を取ってもらう。グループBには睡眠不足の状態を作るため睡眠時間を6時間未満とし、ベンチプレスやスクワットなどのトレーニングを行なってもらった。
重量は1RMの85%に設定され、最大反復回数のレップ数を4セット行った。
その結果、しっかり寝たグループAに対し、睡眠不足のグループBで全てのトレーニングで総負荷量が低下しました。
面白いことにそれはグループAとBの睡眠時間を入れ替えると同じ様に睡眠不足のグループの総負荷が低下しました。
この結果から【睡眠不足はトレーニングに大きな影響を与える】事がわかります。
ですが、この結果はベンチプレスやスクワットなどフリーウエイトで良く行う、多関節運動に見られる減少でした。
多関節運動では睡眠不足による影響は大きかったですが、単関節運動ではどうでしょう?
2018年に発表されたレビュー論文では睡眠不足によって多関節運動時の筋力発揮が低下する。
しかし、単関節運動では有意な筋力低下は見られなかったと結論付けられてます。
私自身パーソナルトレーナーとして運動指導していた時や現在総合病院でリハビリテーションを患者様に行う際に「昨日は良く眠れましたか?」と毎回聞いています。
特に入院されている方であれば、普段と環境が違うためあまり寝れていない人が多いです。
そういった場合、筋トレメインでリハビリを行う方には運動内容に単関節運動をよく取り入れたりするなど効率良く効果を出せるよう工夫をしています。
少し話がそれましたが、ではなぜ睡眠不足になると多関節運動では筋力が低下したのに対し、単関節運動ではあまり影響がなかったのでしょうか?
それは「糖質代謝」と「タンパク質代謝」に変化が要因の1つです。
◆睡眠不足は代謝に影響
睡眠不足がトレーニングに影響する理由としてまず「糖質の代謝」が考えられます。
トレーニングを行う際、私たちの身体はいつも以上にエネルギーを消費します。
そのため、身体のどこかからエネルギーを持って来る必要があります。
それが筋グリコーゲンと呼ばれるものです。
筋グリコーゲンとは食事などで脳の働きや基礎代謝のために必要な糖質(ブドウ糖)を使った後、余ったものをいつでもエネルギーとして使える様に筋肉の中に貯蔵した糖質(ブドウ糖)です。
これがトレーニング時に筋肉を収縮させ、強い力を発揮させるためのエネルギーになります。
特にランニングなどの有酸素運動と違いフリーウエイトなどの高強度の運動ではこの筋グリコーゲンがとても重要になります。
しかし、睡眠不足はこの筋グリコーゲンの代謝を減少させる事分かっています。
例えばChristian Benedict博士は「睡眠不足になればインスリン感受性が20%低下する」と論文を発表しています。
インスリンは血中のブドウ糖を筋肉に送る役割があるため、インスリンがよく働くと筋肉はエネルギー源が多くなり、より筋力を発揮できます。
ですが、睡眠不足でインスリン感受性が20%低下すると言う事は単純に筋肉に送り込まれるエネルギー源がその分カットされると言う事です。
また2011年にオーストラリアで行われた実験では、通常の睡眠時間と睡眠不足のアスリートに対して筋グリコーゲンの量を調べられました。
その結果、睡眠不足のアスリートで有意に筋グリコーゲン量が減少していた事がわかりました。
更にインスリン感受性とは逆でインスリンの働きを悪くする事を「インスリン抵抗性」と言います。
睡眠不足の時はこのインスリン抵抗性が有意に増加する(インスリンが働きにくくなる)と2017年にイギリスの大学から発表されました。
ただでさえ睡眠不足になるとインスリン感受性が20%も低下する事が分かっているのに、その上インスリンの抵抗性まで増加するとなるとトレーニングの効果が格段に落ちてしまう事がわかります。
●睡眠不足はタンパク質代謝にも影響
睡眠不足はタンパク質の代謝に影響します。
タンパク質の代謝に影響すると言うことは、筋合成の低下に直結します。
2011年に発表された研究では睡眠不足によってストレスホルモンであるコルチゾールが増加し、テストステロンが有意に低下した。
その結果、タンパク質合成回路の働きを減少させ、タンパク質分解回路を活性化させたと分かっています。
またResistance exercise: a non-pharmacological strategy to minimize or reverse sleep deprivation-induced muscle atrophy という他の研究でも睡眠不足によってテストステロン、成長ホルモン、インスリン様成長因子が低下し、高度な筋分解が起こる事が分かっています。
●筋肉の回復は?
睡眠不足になると筋肉の分解や萎縮が進みやすい事が分かって頂けたかと思います。
では、トレーニングをした後で睡眠不足になるとどうなるのでしょう。
2020年にこんな論文が発表されています。
10人の男性に筋トレを行なってもらい、等速性筋収縮の試験と血液サンプルを摂取しました。
結果は睡眠不足のグループでホルモンの異常と炎症反応が強い事がわかりました。
しかし、等速性筋収縮には差がなかったそうです。
つまり、この研究だけで言うと睡眠不足では先ほど述べたホルモン反応の異常(低下)による筋合成の減少に加え、炎症反応が強いため筋肉痛が長引く可能性が示唆されていますが、筋肉の回復速度は特に遅くならなかったと言えます。
ただこの実験はランダム比較試験のためそこそこ信頼性はあるものの被験者が10人と少ないため、「そうなんだ」レベルで考えておくと良いでしょう。
◆睡眠不足は感情の抑制も効かなくなる。
睡眠不足は筋肉に悪影響でトレーニングの効率が悪くなるというお話をずっとしてきましたが、トレーニングに慣れた人であればボディビルダーやフィジークの選手の様にストイックにする必要がないため1回や2回効率が悪くなってもそこまで影響はないと思います。
(それでも折角やるなら効果を最大限にしたいですが)
しかし、ダイエットやトレーニングを始めたばかりの人は睡眠不足に特に注意して頂きたいのです。
睡眠不足は感情の抑制が弱くなる、つまり意志力が低下してしまうのです。
睡眠不足と感情 については様々な研究がされていますが、例えば2014年に発表されたレビュー論文では睡眠不足になると感情的な行動が増加してしまうと言われています。
また睡眠不足になると甘いものを我慢できなかったり、やろうと思っていた事を後回しにしてしまう傾向になりやすいです。
ただでさえ、運動を始めたばかりはジムに行く事自体に決心がいるのに、そのための意志力が低いと継続する事ができず「やっぱり自分には運動は向いていないんだ」と諦めてしまいます。
そうならないためにも、睡眠不足には充分気をつけましょう。
◆効率良くトレーニングするために
今回は睡眠不足とトレーニングについての関係性をお話ししてきました。
睡眠不足になるとトレーニングの効率が下がってしまうため、なるべくしっかりと睡眠を取る事を意識しましょう。
それでも仕事が忙しく、睡眠不足になる事もあると思います。
その時はいつものフリーウエイトでの多関節運動ではなく、マシンやダンベルなどで単関節運動を行う事で効果的にトレーニングを行えます。
また睡眠不足自体になると筋分解が促進されますが、2015年の研究で「トレーニングを行うと筋分解・筋萎縮を軽減できる」とされています。
睡眠不足による筋量軽減はなしには出来ませんが、トレーニングによって軽減はできる様なので睡眠不足でもトレーニングする意味はありそうです。
(もちろん体調に合わせて、疲労が溜まっているなら休んでくださいね。)
更に睡眠不足はトレーニング以外にも
・ダイエット
・感情の抑制
・仕事、勉強の効率化
・記憶力など
様々なことに影響を与えます。
睡眠に関してはまた他の記事でも書かせて頂きますが、ダイエットに関してはこちらの記事に書いてあるため時間があれば読んで頂きたいです。
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今回も記事を読んで頂きありがとうございます。
睡眠不足になるだけで大幅にトレーニングの効果が減少する事が分かっていただけたかと思います。
折角頑張ってトレーニングするなら効率的に行なって理想の体を手に入れて頂きたいですし、睡眠不足になると脳の働きも低下するため仕事などにも影響が出てしまいます。
可能であれば毎日しっかりと睡眠時間を確保しましょう。
ではまた次回の記事でお会いしましょう。