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「適度なアルコールは健康に良い」は嘘!?

「アルコールは適度に飲めば健康に良い」「酒は百薬の長だ」と聞いたことはありませんか?

 

アルコールは大量に飲むと心血管疾患・冠動脈疾患などのリスクを減少させると言われています。

しかし、それは本当でしょうか?

 

今回の記事はお酒好きの人には耳が痛い話になるかも知れませんが、アルコールについてのお話です。

 

 

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◆酒は百薬の長

 

もそも「酒は百薬の長」という言葉の由来は何なのでしょうか?

言葉の由来としては昔の中国(漢)の時代に王莽という人物が酒を飲むと気分が高揚することから「夫れ塩は食肴の将、酒は百薬の長、嘉会の好、鉄は田農の本」と言ったことが由来とされています。

 

そこから「酒は百薬の長」と言われる様になり、健康に良いとされてきました。

私自身、諺や慣用句は人間の知恵として好きですし、考え方の参考にもなると思っています。

 

しかし、健康や医療に携わる者としては「昔からの言い伝えだから」と言って盲信する訳にはいきません。

 

そのため前置きが長くなりましたが、お酒についての研究結果を見ていきましょう。

 

◆お酒は身体に良いという研究

 

ず「お酒は身体に良い」という結果が出ている研究から見ていきましょう。

 

初めにThun MJ et al. Alcohol consumption and mortality among middle-aged and elderly U.S. adults. N Engl J Med 337: 1705-14, 1997.という研究です。

 

この研究では平均年齢56歳の49万人を9年間調査しています。

結果はアルコールを飲んでいる人は飲まない人に比べ心血管疾患(心臓などの病気)になる割合が30~40%低かったとされています。

しかしこの研究ではアルコールを飲んでいる人は飲まなかった人に比べ癌になる確率が30%も高かったとなっています。

 

心血管疾患の確率が下がっても癌になる確率が上がったということですね。

 

この研究の様にアルコールの健康への効果については心血管疾患のリスクを謳っているものがほとんどです。

つまりその他のリスクは高くなるのですが、それでも心血管疾患に効果的なら飲む価値はある程度ありそうですね。

 

ネットでアルコールについて調べてみると「Jグラフ」というものが出てきます。

これはアルコール摂取量と疾患発症の確率を表したものですが、アルコール が少量なら、グラフは少し下に下がりリスクが低下します。

しかし、大量に飲むとリスクが高くなります。

この形がJになることからJグラフと言われています。

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※画像は厚生労働省から抜粋

 

は本当にアルコールは心血管疾患のリスクを下げるのでしょうか?

他の研究を見てみましょう。

 

国際循環器病研究センターの発表では「アルコールは狭心症心筋梗塞、虚血性心疾患に効果的」と発表されています。

 

また厚生労働省の発表では、アルコールは適量・少量であれば「脳梗塞に保護的に働く」「冠血管疾患のリスクを20%軽減させる」「抹消血管閉塞に効果的」とされています。

 

「国際循環器病研究センターや厚生労働省が言っているなら間違い無いのでは?」と思うかも知れませんが、これはちょっとしたトリックがあるのです。

 

◆お酒のデメリット

 

ほどの研究などからアルコールについてのメリットは「冠血管疾患」「脳梗塞」「抹消血管閉塞」「狭心症」などに効果があるということでした。

 

しかし、良く考えると少し違和感があることがわかります。

アルコールを飲むことで効果があると言っている疾患の全ては「血管の詰まり」が原因のものばかりです。

 

 

狭心症は心臓の血管が一時的に詰まる疾患ですし、抹消血管閉塞や脳梗塞心筋梗塞は文字通りその場所の血管が詰まります。

また冠血管疾患も心臓の血管が詰まり循環不全を起こすものです。

 

なぜこれらに効果的なのかと言うとそもそも「アルコールは血管を拡張させる効果がある」からなんです。

アルコールによって血管が拡張している時間が長いため狭心症脳梗塞で血管が詰まる確率が低下します。

 

これがアルコールと疾患のちょっとしたトリックです。

実際に先ほどの厚生労働省の発表ではアルコールによって脳出血のリスクが向上することや不整脈や心房細動のリスクが上昇することが分かっています。

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に国際循環器病研究センターの発表でもデメリットが示されており、アルコールによって心肥大や心疾患、期外性収縮や心房細動、くも膜下出血のリスクが高くなるとされています。

 

つまり、「アルコールは血管を広げるため血管の詰まる病気には効果があるが、その分他の病気や他の心血管疾患のリスクは高くなる」と言えます。

 

 

加えてこの研究では血圧のことについても言及されていて、 「アルコールを飲むと血圧上昇が起きるとされています。

ただ国際循環器病研究センターでは「アルコールによって血圧は上昇するが夜間(就寝中)はアルコールを制限している方が血圧が高くなるため、平均すれば血圧は同じくらい」とされています。

 

これについては血圧はその時の心臓や血管の負荷を見るもののため平均して同じだからと言って安全なわけではないと個人的には思います。

またこのアルコールを制限している人は普段アルコールを飲まない人ではなく普段飲んでいるが制限している人です。

 

普段から飲んでいる人ということはアルコール の影響でそもそも血管が硬くなっている可能性が高いため、血圧が通常よりも高くなってしまうのは当然の結果だと考えます。

 

これらの結果からアルコールが心臓病などに良いというのは単にアルコールが血管の拡張を促すため、血管の詰まりが緩和されるだけで根本的に健康になるわけではないと私は考えます。

 

 

●「アルコールは飲まない方が良い」という決定打

 

こまでアルコールは血管の詰まりが原因の疾患には効果はあるが、トータルして見るとアルコールは健康に良いと言い切れないと様々な研究から考察してきました。

 

 

今まではこの様な考察でしかアルコールと健康に関して説明出来なかったため、

トレーナー時代にお客様に「アルコールは健康に良くない可能性の方が高いです」と言っても

「いや、でも身体に良いって言う話も聞くし」となかなか納得してもらえない時もありました。

 

 

しかし、【アルコールと健康】に関して決定的な論文が発表されました。

それがhttps://www.thelancet.com/article/S0140-6736(18)31310-2/fulltextという2018年に発表されたもので1990年から2016年までの期間195もの国と地域でアルコールによる障害や死亡率などを調査し続けた論文です。

 

この論文で結論つけされているのは【健康上の障害や病気を1番抑えられるアルコール摂取量は1週間あたり0g】とされています。

 

 

つまりアルコールは飲まないことが1番健康に良く、摂取量が増えていくにつれ健康被害のリスクが高まります。

この研究は2018年世界で最も注目された論文第3位にランクインする程の衝撃を与えました。

 

これが決定打となり現在アルコールは健康に良いかと聞かれた際に「飲まない方が良い」と言える様になりました。

 

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すが、この論文は2018年に発表されたばかりのため一般の方はもちろんトレーナーの方や医療従事者でも「お酒は少量なら健康に良い」という方がまだ多いなと感じます。

 

 

実際に少し前も院内の先輩と話していると「アルコールは心疾患に効くから少量なら良い」と言っていて、「それは少し前の話ですよ」と説明しても聞き入れてもらえませんでした。

もしかしたら後輩に指摘されたことが気に食わなかっただけかも知れませんが、今までの知識を盲信している方も多くいるため、自分で判断できる様知識を深めていきましょう。

 

◆健康的なアルコール代表の赤ワイン

 

て、ここまでのお話しでアルコール自体が健康に良くないと説明されてきましたがこんな疑問はないでしょうか

 

「健康に良いと言われている赤ワインもダメなの?」

 

確かに赤ワインは唯一健康に良いアルコールだと言われています。

赤ワインが健康に効果がある理由としてポリフェノールが豊富で抗酸化作用があると言うのが一番の理由ではないでしょうか。

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かに赤ワインはポリフェノールの一種であるレスベラトロールが豊富です。

その量は同じワインである白ワインの10倍とも言われていて、事実ポリフェノールレスベラトロール)は身体に有益な働きをします。

 

しかし、ハーバード公衆衛生大学院のエリック・リム教授は「赤ワインから摂取できる

レスベラトロールは野菜や果物から摂取できる量よりはるかに少ない」と言っています。

またJAMAインターナショナル・メディシンによると「レスベラトロールと心臓疾患や癌の罹患率は関係がなかった」と発表されています。

 

更にレスベラトロールの効果を示した研究では

「赤ワインからポリフェノールの成分を抽出し、動物に与えていた」「その結果素晴らしい効果があった」というのがほとんどであり、「実際に同じ量のポリフェノールを人間が摂取しようとすると毎日8〜10本の赤ワインを飲む必要がある。」とエリック・リム教授は言っています。

 

 

【10年間にアルコールを飲む量が多いほど脳卒中や癌になる確率が高くなる】という研究もありますが、そんな研究なくても毎日それだけ赤ワインを飲めば健康に悪いのは明らかですよね。

 

 

また赤ワインに関しては動物実験だけでなく、人間でも「赤ワインを飲む人の方が健康的で長寿」という疫学実験がされています。

しかし、疫学調査では地域の風土や食生活などの要因が省かれていて実際には関連がなかったということもしばしばあると以前お話ししました。

その記事はこちら

 

rehaphysical.hatenablog.com

 

 

ワインに関しても行われている研究は疫学調査も多いです。

特に赤ワインをよく飲む地域の人は健康に良いとされている地中海式の食事をしている人がほとんどです。

地中海式の食事はポリフェノールや良質な脂質を摂取を多く取るため、そもそもが身体に良い食事をしています。

 

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ちろんポリフェノール自体は健康に良いのですが「地中海式の食事に赤ワインが含まれている」「赤ワインはポリフェノールが豊富だ」「実際に調べてみたら赤ワインを飲んでいる人は健康な人が多かっった」「赤ワインが健康に良い」と調査がねじ曲げられてしまっている可能性があります。

 

またエリック・リム教授は「赤ワインはビールなどの他のアルコールと比べ健康に関してメリットがある訳ではない」とも発言しています。

 

◆まとめ

 

今回のお話はいかがだったでしょうか?

お酒が好きな人には耳が痛いお話だったかも知れませんが、現段階では

・アルコールは飲めば飲むほど健康被害のリスクが高まる。

・少量なら健康に良いは少し前の話

・赤ワインも例外ではない

 

しかし、お酒が好きな人に全く飲むなと言うのは少し厳しいですよね。

お酒の場は楽しいですし、気分も高揚してリラックスできるため精神的な健康のため飲むのであれば適度なお酒は飲んでも良いと思います。

 

 

また赤ワインを含む地中海式の食事をしている地域の人たちが健康なのも事実なため、多少お酒を飲んでいてもその他の食事を気を付ければ、そこまで大きな健康被害を被るリスクは高くないと考えます。

 

人間の健康は1日で崩れるものではなく、日々の積み重ねです。

飲み会の日は楽しんで、その他の日で健康に目を向けた食事を心がけましょう。

 

本日も読んでいただきありがとうございました。

また次回お会いしましょう。